性的虐待を受けた性暴力サバイバーの妊娠出産期の支援 推薦文

推薦文3

私たちソーシャルワーカーの仕事は、想像力の豊かさと確かさが肝だ。
日本で性的虐待のなかを生き延びた人たちと付き合って30年ほどになるが、出産を体験した人はごくわずかだ。自分を保ちながら社会のなかで生きることだけでも大変という表現の方が適切かもしれない。だから妊娠出産期の支援をテーマとした本書が訳出されることに大きな意義を感じつつ、彼女たちが死なないでいることの方が気になってしまう自分がいた。
だが読み始めてすぐ、それは間違っていたと感じた。自分に起こった出来事に虐待、あるいは暴力という名付さえ叶わずに、妊娠出産期のなかで再びトラウマを体験させられてしまう女性たちのことなら、私はよく知っている。精神科病院のなかで、あるいは女子刑務所のなかで出会った女性たちの顔が浮かぶ。そして本書のサバイバーたちが繰り返し語る診察の場面で医療者や援助者から投げかけられる言葉や態度の多くは、見事に加害者のそれと重なっていて吐き気がするほどだ。こんなにも似ていることに気が付かなかった自分を恥じる思いがした。
サバイバーの一人が言う。「医療従事者はすべての母親が性暴力や虐待を受けた経験があることを前提に、気を付けて行動する必要があると思います。そうすれば母親に被虐待の過去を開示する負担を押し付けなくてすむ」と。本書は私たちの想像力は十分なのか、それは確かかと問いかける。言葉にならないものに耳を傾けながら、共にあること、彼女が全ての中心であることをどうサバイバーたちと共有できるだろう。シンプルな原理であるからこそ難しい。
だが本書はこうした対話を始めるための重要なきっかけを私たちに与えてくれる。それにどのように応答するのか。いま、そのことが問われているように思う。


大嶋 栄子
特定非営利活動法人リカバリー代表 精神保健福祉士

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推薦文2

妊娠・出産期において性虐待を受けた性暴力サバイバーについて多くの事例を通して当事者の苦しみを知ることが出来ました。もっとも祝福される「出産」に対してその行為が性的被害体験と重なるという事実をあらためて認識し、愕然としました。この書物と出会い、女性を支援している施設の女性たちの事を思い浮かべました。婦人保護施設(売春防止法改正により、2024年から女性自立支援施設に変わります)に辿り着く殆どの女性たちは虐待・暴力の被害者です。
中には幼児期から実父・義父・祖父・兄など親族から長期にわたり、被害を受け続けてきた女性もあります。「性的侵害」は生活の中でも様々に「生きづらさ」として見られます。「自分の身体は汚い」という言葉も聞きます。自分の身体が加害者に蝕まれた嫌悪感(膣・乳房・口)から、いたたまれず自傷行為に走る人もあります。性的侵害は許されない犯罪行為であり、重篤な人権侵害です。
施設には相手が不明のまま出産に至って入所してくる女性たちもあります。私たちは「女性が妊娠し出産する身体」「出産と同時に母となる女性」についてなど、出産時の状況など聞き取りながら女性たちに話すことがあります。
ほとんどの人が「自分の身体を守ってくれる人がいる」ことは皆無に近く、「自分の身体を自分が守る」ことすら知らない、出産を共に喜んでくれる経験もない状況下に置かれています。
まして、過去の虐待が出産により再トラウマ化しているかもしれないことまで認識を深めることはできていなかったと思いますし、私たち支援者もそこまで深めることはできていませんでした。
こんな言葉をよく聞きます。「私も虐待を受けてきたから、自分の子どもにも虐待をしてしまうのではないかと不安です」と。女性たちは自分が受けてきた性的虐待・暴力を「自分の身体」への侵害として理解できないために、自分を責めているのです。自尊感情を持つことすら許されなかった、知らなかった女性たちに、「あなたはあなたでいい」と話してあげたいと思います。
文中から貴重な事例とメッセージを沢山頂きました。
女性一人一人が、妊娠中、出産中、そして産後も愛され、大切にされたと感じる必要があります。—―― 素敵なメッセージです――



横田 千代子
全国婦人保護施設等連絡協議会会長 いずみ寮施設長

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横田 千代子プロフィール
 1984年(昭和59年)婦人保護施設「いずみ寮」に指導員として就職。1999年(平成11年)施設長に就任。現在、婦人保護施設「いずみ寮」施設長。 2005年(平成17年)全国婦人保護施設等連絡協議会(全婦連)会長 現在に至る
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<取り組んできたこと>
○ 「売春防止法」の改正、新法制定:2022年5月19日議員立法
「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」制定
   〇いずみ寮「暮らしつくり」の支援‐-生きて来たけれど暮らしてこなかった―
     *取り組んでから2023年4月で 17年目を迎える

<今後取り組んでゆきたいこと>
   〇 支援法として当事者を真ん中にした「生きた法律」へ
   〇 性被害からの回復支援
「性被害回復支援センター」(仮称)の立ち上げ
   〇 女性支援3機関の連携(支援機関の中核としての機能する)

<社会的活動>
 〇「生きにくさを抱えた障害者ネットワーク」理事
 〇「ポルノ被害と性暴力を考えるか会」(ぱっぷす)

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推薦文1

midwifeとして妊娠をした方の隣にどう在るのか。
この本はサバイバーの語りを通じて、彼らの隣で「害のない存在」であることの大切さを教えてくれる。そして当たり前だと考えているケア(出産準備教室や妊婦健康診査、分娩進行中、産後の授乳サポートなど)の全てをトラウマ・インフォームド・ケアの視点から見直す必要があることに気づかせ、具体的にどうすべきか考えることを助けてくれる。

たとえ目の前にいる妊産婦がサバイバーであることを語らなかったとしても、私たちが見分けられなかったとしても、全ての妊産婦がなんらかの性的虐待のサバイバーである可能性があることを忘れてはならない。「害のない存在」であるために私たちにできることは現場での自分自身のケアを変容させること。彼らこそが妊娠出産のあらゆる場面での権利の主体であり、本人の選択の全てに敬意を払い尊重したケアについて考え実践する必要があることを本書にある一人ひとりの語りは繰り返し訴えかけている。
誰もが妊娠・中絶・出産の当事者になる可能性があるにも関わらず、「セクシュアル・リプロダクティブヘルス・アンド・ライツ(SRHR)」という概念を知っている人はまだ多くはない。たとえこの概念を知っていたとしても、SRHRを保障する法律や制度もまだ不足する社会の中で、「自分の身体は自分で決める」ことにどれだけのエネルギーが必要なのか。この本を読み終えて感じているのは、サバイバーが持つそのエネルギーを奪うことなく、生きる力を信じサポートすることこそが癒しになるという希望だ。
「にんしん」をきっかけに、誰もが孤立することなく、自由に幸せに生きていくことができる社会の実現を目指して。



中島 かおり
認定NPO法人ピッコラーレ代表理事 助産師

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