性暴力サバイバーが出産するとき 推薦文

推薦文2

福澤 利江子さん
筑波大学、助産師、「ドゥーラ研究室」運営


現在の活動概要
ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、修了。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。WHOガイドライン「ポジティブな出産体験のための分娩期ケア」、国際出産イニシアティブによる「安全で母子&家族を尊重したケアを実現するための12のステップ」などの翻訳にかかわり、出産ケアの公正性や人権に基づくアプローチに取り組む。


推薦文
日本では少子化が急速に進み、生殖期年齢にある女性のうつや自殺も増えています。人々が妊娠・出産・子育てに消極的になる理由はさまざまで、経済的な負担、キャリアとの両立の難しさ、女性や赤ちゃんが大切にされにくい社会背景など、妊娠した「後」に起こる問題については理解が進んできました。しかし、個々の女性に妊娠「前」に起こったことや、その影響や対処方法はほとんど認識されていません。本来、セックスから始まる妊娠・出産や授乳は、とてもプライベートで個人的なことです。セックスは、大切な人との愛の営みであり、あるいは一方で魂の殺人と言われるレイプにもなりえます。その決め手は相手との関係性、つまり、かかわりの質です。同様に、出産体験も、その後の人生のパワーの源になる体験にも、生涯残るようなトラウマにも、どちらにもなりえます。研究からも、妊娠・出産・産後の繊細な時期に、周囲の人々にどのくらい大切にされるかということが、当事者にとって最も重要と言っても過言はないとわかっています。ケアの現場では、すべてをさらけ出した弱い立場にある母子を、傷つけず、できれば力づけられるよう、産科医、助産師、看護師、ドゥーラ、家族などの支援者がどうかかわるかというケアの質の向上に注目する動きが、過去10年以上、海外で高まっています。本書はそのような国際的なムーブメントを長年率いてきたペニー・シムキン氏とフィリス・クラウス氏による名著です。日本でもムーブメントを起こしたいという情熱をもつ翻訳チームにより、このたび日本語版が完成したことをとても嬉しく思います。
妊産婦が抱える悩みにはなものがありますが、その中でも特に、過去に性的虐待を受けた女性が出産で直面する問題は、私たちが想像する以上に多く存在するばかりか、最も繊細で、表立って見えにくいという特徴があります。この本はとても分かりやすく、当事者の体験や生の声を知ることもでき、医療者も当事者さえ気づきにくいニーズや具体的な対策について学ぶこともできる、貴重な本です。「このような特殊なトピックについてわざわざ学ばなくても、普通に、常識をもって対応していれば大丈夫」と考えるのは実は間違いなのだということにこの本を読んで気づかされます。そして、当たり前に行われているケア(例えば、内診時の「力を抜いて」などの言葉かけ、母乳育児を促すこと)さえも、相手の背景によってはフラッシュバックのトリガーになりうることに驚き、不安になります。しかし、事前の知識や準備があれば予防可能であることもわかり、安心感も得られます。そして、こんなにたくさんの対処法があるということにも驚かされます。この本を読むと、性的虐待の既往のある女性が抱える問題は、ごまかせず、見て見ぬふりもできないことがよくわかり、一人ひとりと丁寧にかかわらなければ、専門知識を備えなければ、という気持ちになると思います。
最後に、妊産婦のケアに携わる支援者はこのような重責を担っているという、こちらも表立って見えにくい真実が、本書を通じて社会に理解され、ケア提供者が働く環境も改善されていくことも願います。性的虐待を受けた経験のある女性が「また産みたい」と思えるようなケアの実現と、妊産婦や赤ちゃんにかかわる支援者が自信をもって前向きに働き続けられる環境の整備は、すべての社会に必要な両輪だと思います。一人でも多くの方々にこの本が読まれることを願っています。

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