性暴力サバイバーが出産するとき 推薦文

推薦文5

加納 尚美さん
茨城県立医療大学、助産師
『フォレンジック看護 性暴力被害者支援の基本から実践まで』編者



2004年に出版された「性暴力サバイバーが出産するとき」という本が、20年の年月を経ても増刷され続け、この度、第2版を日本語として翻訳されることになりました。一読して、性暴力被害の実態や関連する刑法の検討、被害者支援の場が少なからずできてきた今こそ多くの人にとって役立つ本に違いないと思います。
私は助産師として働く中で、お産の際に突如全身を硬直する方、最初から出産終了まで恐怖心が持続する方、絶対にお産の時に足を開きたくない方に出会ったことがありました。また、性暴力被害を受けた主訴を訴えても医療現場では対策が講じられていないことをきっかに、1996年に「性暴力と医療をむすぶ会」の活動への参加を経て、2000年には有志と「非営利活動法人女性の安全と健康のための支援教育センター」を立ち上げ、研修の企画及運営を主に活動して22年となります。この研修での人的交流からさらに支援活動や学術団体(日本フォレンジック看護学会)も生まれ、少しずつ根を張ってきています。性暴力、特に子ども時代の被害の深刻です。
この本は、すべての関係者、つまり子どもの頃に性虐待にあったサバイバー、家族、医療関係者他に同じ情報を与えることを目指しています。多くの女性たちのストーリー、経験に基づき、理論的内容も分かりやすく解説されています。女性に何が起きていたのか、どのような影響がサバイバーに起きたのか、妊娠出産および産後の具体的な経過の中でのおき得るトラブルや、それらの防止対策、コミュニケーションや癒しなど実践例が紹介されています。
読者の中には、自分もサバイバーだったかもしれないと共感される方もいるかもしれません。また、日本では稀なことと思っている方もいるかもしれません。昨今の内閣府による性暴力被害に実態調査からは自分から被害を言い出せない方が圧倒的に多いことが報告されています。ケースの名前を私たちの身近な名前に置き換えて読んでもいいのかもしれません。
冒頭に推薦文を書かれている文化人類学者のシーラ・キッチンガーのお名前を見つけました。1994年11月3日、日本で初めて開催された「いいお産の日」にシーラは舞台の上で、出産の喜び、すなわち自分でコントロールし、達成感を得る、究極の喜びのパーフォーマンスを演じてくれました。この本の中で提唱されている内容は、まさに「サバイバーにとってよいケアはすべての人にとってよいケアである」(バンクーバーの女性団体の言葉)を実感させられるものです。

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推薦文4

白川 美也子さん
精神科医、臨床心理士、公認心理師『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア』著者



日本においても4人に1人以上の女性が性暴力や性的虐待を受けていることが未だ知られていない。圧倒的な臨床量――ケアする人とされる人の相互交流までを含む豊富な事例記述を基盤に、体験的に重要な情報と対処法を伝え、世代間伝達の要である女性の出産体験をより幸福なものにすることに寄与するトラウマインフォームドアプローチの手本のような本。妊娠・出産を控えたサバイバーとその人を支援するヘルスケアプロバイダー、産婦人科医、助産師、保健師、精神科医、心理士/師に推薦する。

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推薦文3

河野 美代子さん
産婦人科医、『SEX & our BODY 10 代の性とからだの常識』著者


私は、これまで50年間産婦人科医として妊婦のケアやお産に携わる一方、妊娠SOSや性被害ワンストップセンターに関わってきました。今、改めて考えるのは、この社会にはどうしてこんなに子どもの性被害が多いのだろうかということです。本当に許せないことが起こり続けている、この事態をどうすればいいのかと。
同時に、被害にあった彼女たちが、この先、痛みを抱えながら生きていけるのか、その立ち直りと成長のために、周りはどうサポートしていけばよいのかということも。
この本は、そんな子どもの頃に性的被害にあった女性たちが、やがて自ら命を生み出そうとする時、どんなことが起きるか、そして周囲はどうケアをしていけばよいのか、それらが網羅されています。
二人の女性によって2005年に初版が出版され、第12版まで増刷され続けました。しかし、この社会では、この本の需要はますます高まり、この度初版に細かい修正を加えて改めて増刷されたものです。
目次を見るだけでも、
1.子どもの頃の性的虐待と、社会での受け止められ方
2.子どもへの性的虐待と成人後への影響
3.子どもの頃の性的虐待が妊娠に与える影響
4.子どもの頃に性的虐待を受けた女性の出産について
5.産後
から、出産に携わる医療者などにあてて、コミュニケーションスキル、カウンセリングや内診の仕方などについてまで、きめ細かく記述されています。
私は、これまで助産師や保健師、臨床心理士などはもちろん知っていましたが、ドゥーラという、妊婦に寄り添う職業があることは存じていませんでした。妊婦としっかり信頼関係に結ばれてサポートしてくれる人がいるなら、日本のお産事情もずいぶんとよくなるでしょう。心のつらさを抱えている人には、なおさらだろうと思いました。
この本は、女性の医療やカウンセリングにかかわる人達、特に性的被害のサバイバーにかかわる人たちすべてが手に取っては読むべき本でしょう。さらに、サバイバー当事者の方たちも読んで戴けたなら、きっと前向きに命を生み出すことができるようになるでしょう。とてもきめ細かい配慮に満ちていますから。

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推薦文2

福澤 利江子さん
筑波大学、助産師、「ドゥーラ研究室」運営


現在の活動概要
ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、修了。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。WHOガイドライン「ポジティブな出産体験のための分娩期ケア」、国際出産イニシアティブによる「安全で母子&家族を尊重したケアを実現するための12のステップ」などの翻訳にかかわり、出産ケアの公正性や人権に基づくアプローチに取り組む。


推薦文
日本では少子化が急速に進み、生殖期年齢にある女性のうつや自殺も増えています。人々が妊娠・出産・子育てに消極的になる理由はさまざまで、経済的な負担、キャリアとの両立の難しさ、女性や赤ちゃんが大切にされにくい社会背景など、妊娠した「後」に起こる問題については理解が進んできました。しかし、個々の女性に妊娠「前」に起こったことや、その影響や対処方法はほとんど認識されていません。本来、セックスから始まる妊娠・出産や授乳は、とてもプライベートで個人的なことです。セックスは、大切な人との愛の営みであり、あるいは一方で魂の殺人と言われるレイプにもなりえます。その決め手は相手との関係性、つまり、かかわりの質です。同様に、出産体験も、その後の人生のパワーの源になる体験にも、生涯残るようなトラウマにも、どちらにもなりえます。研究からも、妊娠・出産・産後の繊細な時期に、周囲の人々にどのくらい大切にされるかということが、当事者にとって最も重要と言っても過言はないとわかっています。ケアの現場では、すべてをさらけ出した弱い立場にある母子を、傷つけず、できれば力づけられるよう、産科医、助産師、看護師、ドゥーラ、家族などの支援者がどうかかわるかというケアの質の向上に注目する動きが、過去10年以上、海外で高まっています。本書はそのような国際的なムーブメントを長年率いてきたペニー・シムキン氏とフィリス・クラウス氏による名著です。日本でもムーブメントを起こしたいという情熱をもつ翻訳チームにより、このたび日本語版が完成したことをとても嬉しく思います。
妊産婦が抱える悩みにはなものがありますが、その中でも特に、過去に性的虐待を受けた女性が出産で直面する問題は、私たちが想像する以上に多く存在するばかりか、最も繊細で、表立って見えにくいという特徴があります。この本はとても分かりやすく、当事者の体験や生の声を知ることもでき、医療者も当事者さえ気づきにくいニーズや具体的な対策について学ぶこともできる、貴重な本です。「このような特殊なトピックについてわざわざ学ばなくても、普通に、常識をもって対応していれば大丈夫」と考えるのは実は間違いなのだということにこの本を読んで気づかされます。そして、当たり前に行われているケア(例えば、内診時の「力を抜いて」などの言葉かけ、母乳育児を促すこと)さえも、相手の背景によってはフラッシュバックのトリガーになりうることに驚き、不安になります。しかし、事前の知識や準備があれば予防可能であることもわかり、安心感も得られます。そして、こんなにたくさんの対処法があるということにも驚かされます。この本を読むと、性的虐待の既往のある女性が抱える問題は、ごまかせず、見て見ぬふりもできないことがよくわかり、一人ひとりと丁寧にかかわらなければ、専門知識を備えなければ、という気持ちになると思います。
最後に、妊産婦のケアに携わる支援者はこのような重責を担っているという、こちらも表立って見えにくい真実が、本書を通じて社会に理解され、ケア提供者が働く環境も改善されていくことも願います。性的虐待を受けた経験のある女性が「また産みたい」と思えるようなケアの実現と、妊産婦や赤ちゃんにかかわる支援者が自信をもって前向きに働き続けられる環境の整備は、すべての社会に必要な両輪だと思います。一人でも多くの方々にこの本が読まれることを願っています。

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推薦文1

誰にも話せないという傷を心身に刻まれた性的虐待の被害を受けた女性の出産について、ここまで広く深く掘り下げた本を私は知らない。
「これまで手がかりがなかったところに光が差した」。冒頭からすぐに直感し、今まで声にならなかった声、言葉にならなかった思いに当てはまる言葉を手繰り寄せるように読み進めた。それは封印してきた事実がどれほどの影響をこれまでの人生に及ぼしてきたかを振り返る作業にもなった。

大きかったのは、自分は体験の後遺症を生きてきたのだという実感だった。性暴力とは受けた人の人格や振る舞い方や人との関係性においても、長年に渡り歪んだ影響と爪痕を残す。妊娠・出産の前に不妊治療においても完全な医療の管理下で、生殖のためだけの能力を判別される対象としての無力感もよみがえった。そこには内在する力を引き出そうとしたり、エンパワメントの余地もなく、命を宿し生み出すための場所で心を置き去りにするたびに、たくさんの傷を抱えてきたのだと改めて認識することとなった。

「問題とその本質を認識したときこそ、解決に向けての方法を探し始めるべき」(本書 第7章P142)。
気づきが癒しの始まりであることもこの本で得た学びである。本書ではパート2(第6章)から、性的虐待を受けた女性の声にならない思いに医師や助産師はどのように向き合うことができるのか、立場による捉え方の違いを明示した上で有効な関係を築くためのさまざまなアプローチが紹介されている。中でも第12章の内診などの実施について書かれた施術者(支援者)としての心構えと検査時の注意点では、「体現された同意」という言葉の本質や、コミュニケーションのポイントと実践の内容、内診が癒しの契機になりうるよう、どこまでもクライエントの尊厳が貫かれた的確な内容に深く感銘を受けた。尊厳とはパーツではなく、ひと連なりの皮ふ、身体の隅々にまで行き渡るもの。性的虐待の被害を受けた女性はとりわけ皮ふへの接触や人への警戒心は強い。けれども、ここなら安心して自分を開示できると思える場をお産の現場から広めてほしい。誰かに大切に触れられ、ケアされる体験がこれまでの孤独や傷を癒やし、生きる勇気となることもある。

日本で本書を翻訳された方々の真摯な熱意に心から感謝いたします。本書を読んで私自身が過去を捉え直し、この先をよりよく生きたいと思えたように、本書が誰かの扉を開く一歩に、先を照らす希望になるように願っています。


(A. N.)

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